makerescue

レスキュードックの作り方

 

(1)

 さて、いよいよと云うかようやくと云うか、やっとレスキュードックです。このレスキ

ュードックの話では、私はあらゆるノウハウを公開するつもりです。しかし、もっと良い

方法や違う方法をご存じの方がいたら、どうか遠慮無くコメントして下さい。そして、一

人でも多くの方がレスキュードックに取り組めるように、一頭でも多くの犬がレスキュー

の能力を身につけられるように願うばかりです。

 

 まきひめさんのお話ではありませんが、犬は良く吠えます。「ワン ワン ワン」・・・

ウルサイ!何をして欲しいのか、何が云いたいのか、隣近所の迷惑も考えず(当然ですが)

吠えて欲しくないのに良く吠えてくれます。全く困ったものです。しかし、犬だから仕方

がない。けどやはり ウルサーーーイ。ところが、レスキュードックでは吠えてくれない

と困ります。犬がせっかく人を見つけても黙って帰ってきたのでは、ハンドラーは犬が人

を見つけたことがわかりません。「犬が見つけてくれた。助かった!」と思ったその人は

永久に待ちぼうけです(^^;)。

 

 人を見つけたことを示す動作を「告知」といいます。「ワン ワン ワン」吠えれば、

犬が見えていなくてもハンドラーは人を見つけたことを知ることが出来ます。吠える以外

にも方法がありますが、ここでは最も一般的で教えるのが楽な吠える事を告知とします。

 

 要らないときにウルサイほど吠える犬ですが、吠えて欲しい時に吠えさせるにはどうす

れば良いのでしょうか?「吠えることを教える」これがレスキュードックの第一歩です。

そしてこの一歩は、アマチュアにとっては決して楽な一歩ではないようです。

 

 一般的にいって服従訓練は、手取り足取り犬に教えることが出来ます。これがいわゆる

強制と呼ばれる方法ですが、「ホエロ」だけは強制出来ません。「ホエロ」を教えるには

機会教育という手法が用いられます。とにかく吠える機会を作る、あるいは吠える状況を

設定します。例えば、散歩に行く素振りをすると吠えるなら、散歩に行く素振りをする。

食事の時間になると早くくれと云って吠えるなら、食事のふりをします。焼き餅焼きの犬

には、余所の犬を散歩に連れていこうとしたり、余所の犬を可愛がる素振りをします。

 

 あらゆる機会を利用すべきです。公園に散歩に行って、犬だけ木に縛って帰る素振りを

見せる。実際に呼びながら姿の見えないところまで行ってしまう。いつも2頭一緒なら、

一つを残して立ち去ろうとする。ボール遊びの好きな犬なら、やはり犬を木に縛り、目の

前でボール遊びを始め、犬抜きで思いきり盛り上がる。ハンドラーが近すぎるよりも離れ

気味の方が良く吠えると思います。

 

 犬の行動を束縛した方が、吠え易いはずです。そこで「ホエロ」の第一歩は綱で杭に係

留したり、犬舎に入れます。綱に不慣れな犬は先ず綱に慣らさなくてはなりません。うち

のボーダーコリーのホイは犬舎では良く吠えるのですが、外ではあまり吠えません。そこ

で一日中外でクサリで杭に係留しています。すると、一日に1回か2回は吠えます。これ

でいいのです。口の重い犬はなかなか吠えてくれません。一日がかりでも二日がかりでも、

吠えてくれれば褒めてやります。大変、悠長な方法ですが、これで綱になれると同時に「ホ

エロ」もそのうち憶えます。とにかく犬が吠える状況を見つける事、ここから「ホエロ」

が始まります。さあ、どんどん吠えて下さい(^_^)

 

(2)

 ぺっぱさん、どうも。ペックをレスキュードックにするのは簡単ですね。合同訓練会を

沢山やればよい(^_^)

 

 さて、レスキュードックの第1段階は「ホエロ」を教えることです。その為の第1段階

として、犬がどのようなときに吠えるのか、それを見つけ、その状況を作り出すことだと

いいました。この段階ではそれこそ「吠えることを褒めている」に過ぎません。「ホエロ」

で吠える様にする事とは少し違います。犬が良く吠えるようになったら「ホエロ」という

合図で吠えるようにします。

 

 声符は「ホエロ」、視符は右手の人差し指を立て自分の口を指さします。おやっ、内緒

「シーーー」と同じですね(^^;)。吠えやすい状況を作って、犬に対面しきちんと明確に合

図します。「ホエロ」。「ホエロ」で吠えることを教えるには、何回も吠えさせないこと

です。犬が一声吠えたらすぐ褒めます。合図は何回だしても構いませんが、一声でも吠え

たら、すかさず褒めます。はじめの内はオマケして下さい。かすれた声で「ハン」(ワン

になってない声)でも褒めてやります。励ますことも良いことです。精神的に落ち込んで

いては、とても犬は吠えることは出来ません。「ホエロ」「ホエロ」「ホエロ」人の要求

が負担になって犬が落ち込みだしたり、吠える見込みが無さそうなら、吠える状況を再現

しましょう。余所の犬と遊ぶと吠えるなら、余所の犬の所に遊びに行きます。でも、一声

でも吠えたら大急ぎで帰ってきて褒めてやります。それによって犬は人の意図とそれが何

かを理解します。

 

 明確な合図、すかさず褒めること、すみやかに吠えやすい状況に移行すること。勿論犬

は係留すべきです。犬を欲求不満、かつ少し興奮状態にしておきます。(ハングリーな状

態)この精神状態は大切です。これが犬を高度な段階に持っていく原動力になります。 ま、

蛇足ですが、近所に遠慮しながら家でやるよりもガラッと違う場所でやって、「ホエロ」

をその場所に結びつけておいた方が良いかも知れませんね。

 

(3)

 アジリティー、フリスビー、犬ゾリ、あるいはクロカンのスキーを犬に引かせる等いわ

ゆる [WITH DOG SPORTS] 犬と伴に楽しむスポーツが最近、注目されつつありま

す。アジリティーで敏捷にスラロームをクリアしたり、フリスビーを上手くキャッチした

り、犬ゾリで誰よりも早く走ったり、これらは実に楽しく快感です。私が富山の救助犬の

認定試験に出て、一番感じたことが実はこれです。救助犬の訓練は面白い。それは与えら

れた設定から攻め方を考え、犬の持っている力を十分発揮させ、そして犬もそれに答え、

日頃の練習の成果を発揮して隠れている人を見つけだす。これが快感なのです。

 

 試験の参加者は地元富山のアマチュアと、訓練の全国大会で良く顔を合わせる連中だっ

たので、前日の練習日からお互い助け合いながら和気あいあいで練習しました。従って、

お互いの手の内や、犬の力量はだいたい分かっています。認定試験は制限時間内に、閉じ

られた一定のフィールド内に隠れている人を何人見つけられるかという設定で行われまし

た。一日目の第1ステージはブッシュ及び、人工物。二日目、第2ステージは大きな石の

ガレ場に、対象(捜すべき人・大抵倒れている)はひそんでいました。

 

 ブッシュはゲレンデ脇の急斜面(第1ステージはスキー場で行われた)でした。ブッシ

ュは私のバアバア(ゴールデン牝2才)にとっては得意中の得意のフィールドです。なに

せ北海道はブッシュだらけ、家の裏もブッシュだらけ。内地の上品な犬が躊躇、ためらい、

逡巡するような草やぶを屁ともせずに難なくクリア(^_^)。それに引き替え人工物は苦手中

の苦手、北海道(私の近所)には人工物はほとんど無い(^^;)。前日も真っ暗になるまで、

人工物の練習をしました。そのかいがあったのか、あるいは悪運があったのか、板のふた

が覆いかぶせられた排水溝に横たわる人間を割合、苦もなく発見。第1ステージはパーフ

ェクト、バアバア様様(^_^)。

 

 非常に高い能力を持っていてもフィールドに対する攻め方を間違えて、それを出すこと

が出来なかった犬もいました。フィールドをどうやって攻めるか、何処から犬を入れると

一番見つけやすいかはハンドラーの判断次第です。第1ステージは、他のハンドラーの作

業ぶりを見ることが出来たので、「攻略法」は、後になるほど確立されていき、従って後

になるほど成績は良くなります。ところが第2ステージでは、未出場のハンドラーは隔離

され、他のハンドラーの仕事ぶりを見て攻略法を考えることは出来なくなりました。ここ

で私はミスをしたようです。いまになってもっと良い攻め方があることに気がつきました。

第2ステージには3名の人が隠れていて、バアバアの発見できたのは1名。別の攻略法を

すれば2名は発見出来てたはずでした。

 

(4)

 さて、「ホエロ」は出来るようになったでしょうか?とにかく吠える状況を見つけるこ

と。それが見つかったら、その状況の近く(時間的にも空間的にも)で 「ホエロ」の合

図で吠えるようにすること。それが芳しくない場合は、すぐ吠える状況に戻ること。多く

の補助の元で、とにかく「ホエロ」で吠えるという実績を積み重ねます。

 

 訓練はこのように、非常に特殊な条件下で「必ず云うことを聞く」という実績を作り、

それを踏み台にして拡大して行きます。最初からあらゆる条件で答えることは要求しませ

ん。訓練所でしか云うことを聞かない、訓練士の云うことしか聞かない、ということも良

く聞きますが、はじめは訓練所でも訓練士の云うことでも聞かなかったはずですから、そ

れは一応の進歩です。そこからどう出発、拡大していくかを考えるべきです。「散歩の時、

横について歩いてくれるだけで良い」というオーナーのささやかな願望は、犬にとっては

非常に長い拘束を意味します。はじめからそれは無理ですし、その無理を重ねると命令は

だんだん力を失っていきます。そこでしか云うことを聞かない、そこなら云うことを聞く、

訓練の時しか云うことを聞かない、こんな状況を先ず作ることです。訓練所では、はじめ

からあらゆる条件で「云うことを聞かそう」とはしません。横について歩くのは、訓練を

開始してしばらくの間は、その訓練の最中だけです。犬が人の意図を理解する強さに従っ

て、散歩中でも人の横について歩くよう要求するようになります。

 

 吠えられたら困るときに、吠えたらすぐ犬をなだめに行くように、一声でも吠えたらす

ぐ犬の元に行きます。これで犬は吠えれば良いことをおぼえます。同時に犬は、人がそば

にいると満たされて吠えようとしないはずです。しかし、それでは困ります。次のステッ

プは、係留していなくても「ホエロ」で吠えるようにします。係留してある犬が届かない、

ぎりぎりまでハンドラーは近寄って、「ホエロ」の合図をするようにします。内側(係留

してある犬の届く範囲=綱を半径とする円の中)まで入ると、犬は吠えなくても人に働き

かけることが出来ます。飛びついたり、なめたり、咬んだり、それを許すとなかなか吠え

てくれません。また、人が側に居るだけで満たされて吠えないかも知れません。すぐさま、

犬から離れます。犬が届く境目の所にいて、犬の様子を見て、犬の圏内に入ったり出たり

します。吠えているとき、係留してある綱が弛んだ状態になればしめたものです。綱が弛

んだ状態で吠えることが出来れば、完全に自由な状態=係留していなくても犬は「ホエロ」

で吠えることが出来るはずです。

 

 もう一つ。この段階で、犬が吠えてくれたことに対しての人の答えを、人が近づき褒め

る事以外の「何か」(=物)に置き換えます。エサを喜ぶ犬ならエサ。人とジャレ合うの

が好きな犬なら、古いタオルや犬のオモチャ等を用意して遊んでやります。将来に渡って

の汎用性を考えるとボールがよいようです。この「何か」は、アジリティードックで出て

きた「何か」と一緒です。但し、ハンドラーの絶賛ではなく(ハンドラーの絶賛は必ず併

用する)具体的な物でなければなりません。はじめからあまり強い執着はなくても構いま

せん。褒められるときにそれが用いられるにつれて、犬はだんだんその「何か」に対する

執着を強めていきます。それに対する期待感を持つようになれば、更に良く吠えるように

なります。「何か」を見せれば吠える、「何か」があれば吠える、というレベルに持って

いきます。

 

 ペッパさんが恐れる事態、{吠えると遊んでもらえる。だから、吠える。という状況に

なるのがこわくて吠えると褒めることはやっていません。(^_^;}このような事態になりや

すい犬ほど、レスキュードックには向きます。先を読むのが早い犬です。「何か」に対す

る期待感もすぐ抱きます。この期待感、普通これを訓練では「意欲」といいますが、この

「意欲」を作ること、犬に「意欲」を持たすこと、これが初期のレスキュードックの訓練

の課題です。この「意欲」が、これからのいくつかのステップを乗り越える原動力になり

ます。レスキュードックの第1段階は「ホエロ」を教えることですが、この段階の完成に

は、その内面的な根底に「意欲」を伴っているはずです。 第1段階の完成まで、もう少

しです。

 

(5)

 富山の救助犬の認定試験に連れていった私の犬の名前はバアバア。私がバアバアを大声

で呼んでいると、富山のアマチュアの多くが怪訝な顔をする。富山のアマチュアは往年の

若い娘が多い(^^;)。彼女たちをはじめとして、富山のアマチュアは熱心で、自分の今して

いることに誇りと自信を持っていました。それは、日本で誰もやっていなかった時から取

り組んできたという自負と情熱、それに人命救助をしているという誇りから来ているので

しょう。

 

 彼らのようなアマチュアが日本のいたる所で現れれば、日本のレスキュードックはすぐ、

この道の先進国に追いつくことが出来ると私は考えています。レスキュードックを例えば

盲導犬のように、特殊な施設や特殊な訓練を必要とし、それなりの協会でしか訓練するこ

とが出来ないものにしてしまうと、普及は大幅に遅れるでしょう。盲導犬の場合は、仮に

も一人の命を預かることになるのですから、そう気軽に誰でもがとりかかれる物ではない

と思います。施設にしても、欧米のそれと較べると今でも貧弱だと私は思います。どこか

の盲導犬協会のように懐へ入れるお金があったら、もっと施設の充実に振り向けて欲しい

と思います。

 

 しかし、レスキュードックは違います。富山のアマチュアの顔ぶれを見ると良く分かり

ますが、誰でもがとりかかれます。特殊な施設や特別な訓練法は一切、必要ありません。

もちろん、あらゆる訓練と同じく情熱は必要です。それだけです。

 

 さて、レスキュードックの第1段階、「ホエロ」を教えることにかなり近づいてきまし

た。「何か」を用意すれば「ホエロ」という合図で吠える、というところまで来ました。

家庭犬の訓練ならこれで「ホエロ」が出来たといえるのですが、レスキュードックで要求

される「ホエロ」は少し違います。レスキュードックの「ホエロ」は、連続咆哮でなけれ

ばなりません。「何か」を用意すれば、それがもらえるまで吠え続ける、という形です。

 

 やはり吠えやすい状況を作ります。係留しても構いません。「何か」を用意し、「ホエ

ロ」と合図をし、じっと待ちます。この際、犬から視線を外します。「何か」は隠せる物

なら両手で隠します。そして吠えても知らん顔します。

 

 面白いですね、訓練は今までとあべこべです(^_^)。ここまで進歩しました。最初から長

い時間知らん顔していてはダメです。本当に吠えなくなってしまいます(^^;)。連続咆哮と

云うことを意識して、リズミカルに切れ目無く声が出ているときに反応してやります。「ヨ

シッ!」オーバーなくらい、そしてはっきりと答えて下さい。「何か」を与えます。知ら

ん顔は、大嘘だと犬に教えます。

 

(6)

 訓練と聞いただけで敬遠される方がいるかも知れませんが、レスキュードックを作るこ

とはまさしく訓練です。また、訓練とは犬を叩いたり叱ったりしながら厳しく教えるとか、

犬に強い負荷をかけるという認識を持つ人もいるようです。訓練に対するそれらの誤解を

解き、訓練で用いられる方法についての正しい認識のために今回は、普通一般の人があま

り知ることが少ない訓練の内情についてお話しします。裏話ではありませんが、専門的な

話です。いわゆる一線級の訓練士の仕事の中身です。

 

 レスキュードックの訓練は決して難しい物ではありません。おそらく多くの犬とハンド

ラーにとって、アジリティーやフリスビーよりも簡単だと思います。しかし、何の労もせ

ずに出来るような物でもありません。積み重ね(訓練)は必要です。ここで訓練の内情を

紹介することで、レスキュードックの訓練が犬に「オスワリ」を教えることとは少し違う

ことがご理解いただけると思います。

 

 先日、若い女性が訓練士の資格認定の手続きのために私の所にやってきました。この人、

元々イルカの調教をやっておられたようですが、趣味が高じて犬の訓練を始めるようにな

ったそうです。一緒に愛犬を連れてきました。この犬、非常に良く訓練されていました。

一般的な服従作業「スワレ」「フセ」「タッテ」「アトエ」などを大変良く聞き分け、こ

の人の指示に非常に正確に答えていました。見事です。ところが、犯人(仮想)を咬むと

いう作業が、良くありません。ほとんど咬めないと言った方が良いくらいでした。これは

何処にその原因があるのでしょう?

 

 訓練は一般的に三つの作業に別れます。嗅覚、服従、防衛の三つの作業です。家庭犬の

訓練は服従に入ります。一般の人になじみがあるのは、ほとんどこの訓練かと思います。

嗅覚は#11091にあるとおり、警察家の訓練の主たる物です。防衛作業は、対人作業とも言

われ犯人(仮想)を咬んだり、犯人に吠えたりする事を犬に要求します。

 

 最も訓練らしい訓練といえば、嗅覚になるでしょうか。気の遠くなるような長い過程を

経て、人が何を要求しているのかを犬に明らかにしていきます。まさに積み重ね、訓練で

す。服従作業で求められる、犬が自覚しやすい色々な行動(動作)と違って、ニオイを嗅

ぐという行動は、犬の本能の部分に非常に近い動作です。要求することが犬の本能に近い

部分だけに、それを犬に明らかにするのは簡単ではありません。ほとんど無意識で行って

いることを犬に自覚させ、更に意識的に人の意図の元にそれを行えと要求するのです。

 

 服従はすべての作業の基本です。服従は対話です。犬とのコミュニケーションです。彼

女の訓練の素晴らしかったのはここです。愛犬と非常に良くコミュニケーションがとれて

いました。人の命令(合図)は普通、一対一で犬の一つの動作に対応しており、人の意図

を伝えるのに、手取り足取りの強制や叱る方法が通用します。しかし、嗅覚、防衛ではこ

の方法は通用しません。人の意図をただ伝えるだけでは作業をさせることが出来ないので

す。服従で主として用いられるコミュニケーションを主体とした方法は意味を失います。

それらの訓練に際しては、犬の行動と心理に対する深い認識に基づいた手法を用いらざる

をえないのです。彼女の失敗はここにあります。防衛の作業を服従訓練と同じように、人

の意図を伝えるだけで良いと考えていました。

 

 犬が犯人(仮想)を咬むには、要求されている事への認識だけでは出来ません。行動へ

の要因=その行動を起こすだけのエネルギーが必要なのです。「咬みたい」という気持ち

です。防衛の訓練のテーマは、このエネルギーを犬に持たすことが中心なります。犬の持

つ闘争本能を最大限利用し、引き出します。そして、レスキュードックの行動の元となる

エネルギーもこのエネルギーです。レスキュードックが人を捜す様は、猟犬が獲物を求め

る行動と同じです。レスキュードックの第1段階は、犬に連続咆哮を要求します。そして

それと同時に犬は、エネルギー(#11518レスキュードック(4)「意欲」)を持つことに

なります。これがレスキュードックの基礎となります。富山の認定試験で訓練を失敗した

と見られる犬のほとんどは、この基礎の失敗です。

 

 この基礎の確立、これはアマチュアにとって、あるいは犬によっては 非常に困難な第

一歩かも知れません。しかし、レスキュードックの訓練の非常に重要な部分(核心)です。

この部分には、どれほど手間をかけても、どれだけ手間がかかってもそれに見合う値はあ

ります。

 

(7)

 前回は難しいお話でした。訓練のいわゆる理論的な背景で、訓練士の言わずともがの知

識ですが、このパソ2がコンピューターの構造を知らなくても出来るようにあの手の話が

訓練に何かをもたらす事には、私はいささか懐疑的です(^^;)。ま、日本の訓練が叱るばか

りだと思い込んでいる頭の固い人には参考になったかも知れませんが。

 

 さて、ハンドラーに対して連続咆哮が出来るようになったら、次はヘルパーに対して連

続咆哮が出来るようにします。ヘルパーというのは訓練を補助する人で、一般的には友達

やハンドラーの家族になってもらいます。

 

 ハンドラーは犬に綱をつけてしっかり持っています。ヘルパーは犬の大好きな「何か」

をその鼻先で見せびらかしたり、その「何か」で遊んだりして犬をじらし、誘いながら犬

から遠ざかります。5、6メートル離れたら止まって更にその「何か」を使って犬を呼び

ます。ハンドラーははじめから犬をけしかけ、興奮させます。ヘルパーが止まるのを見越

して「ヨシッ!」犬を放すか、一緒に走ります。ハンドラーが犬に干渉するのはここまで

です。犬が吠えないとき、ハンドラーが綱を持って動きを制御し、犬がヘルパーに近づき

すぎないようにすることは良いことです。それ以外の、吠えない犬を吠えさせる為の行為

はすべてヘルパーの仕事で、ヘルパーに任せるべきです。ヘルパーは、原則的には犬が吠

えるための補助を一切しません。犬が吠えない場合だけ、ハンドラーが犬に連続咆哮をさ

せたのと同じ対応をして犬を吠えさせます。

 

 任意の第三者にヘルパーをしてもらって、上記のように犬がそのヘルパーから何の援助

を受けなくても吠え続けることが出来る、この形がレスキュードックの第1段階で目指す

姿です。これが基礎です。ヘルパーは犬がそばまで来た後は、一切の補助をすべきではあ

りません。例えば、吠えさせる為に常に犬に「ホエロ」「ホエロ」と指示をしたり、「何

か」を見せながら吠えさせようとはすべきではありません。しかし、そばに来るまでは、

犬を呼んだり「何か」をちらつかせてその気持ちを高めることは大切であり、ヘルパーが

しなけらばならない事です。

 

 吠え続ける犬に対して、その呼吸に合わせてタイミング良く「何か」を犬に与えたり、

「何か」で犬と遊ぶこともヘルパーの重要な仕事です。ヘルパーは「何か」で犬と遊んだ

ら、必ずその「何か」は犬に奪い取られるべきです。ハンドラーはその「何か」を得た犬

を賞賛します。ハンドラーのこの賞賛は大切です。信頼するハンドラーからの賞賛によっ

て犬は、仕事に安心感を持ち、次からより一層ヘルパーに集中できるようになります。

 

 ヘルパーへの集中は非常に大切です。ヘルパーは自分の決断で犬を褒めたり=「何か」

を与えたり犬が吠えそうに無いとみたら、すかさず「何か」を使って犬を興奮させ、吠え

やすい精神状態に持っていかなければなりません。もしこの時、いちいちハンドラーに指

示を仰ぐと、犬はハンドラーを気にするようになってしまいます。人が分からないからこ

そ犬を使うような仕事において、犬がハンドラーを気にする事は大きなマイナスです。

 

 出来ればヘルパーは、ある程度犬の扱いに慣れた人がするべきです。ハンドラーとヘル

パーは、それぞれの仕事の分担を良く分かっていなければなりません。それによって犬に、

ヘルパーへの集中=執着=期待感を高めていくことが出来るからです。両者の役割分担を

簡潔に説明すると、はじめはハンドラーとヘルパー、両者の協力によって、犬の気持ちを

高めます。ここは共同作業です。気持ちが高まったところで犬を放ちます。犬を放した後

は、ヘルパーに委ねられます。犬はヘルパーに集中すべきです。集中が継続している内に

ヘルパーは、「何か」を与えます。与えた後はハンドラーと犬との世界です。ここでヘル

パーに対して、犬に神経を使わせる必要はありません。ヘルパーは本来任意の第三者なの

ですから、その人物への依存を生むほど、ヘルパーが犬に干渉することは良くありません。

(ヘルパーが褒めすぎるべきではない・「何か」で遊ぶことは構いません。)

 

(8)

 北海道は今、冷凍庫の中のようです。雪も多く、除雪した雪が山のようになっています。

ロウソク1本で暖かくなると言われて、その山に穴を開けて雪洞を造りました。東北のか

まくらをイメージして、中で酒でも飲めたら良いななんて考えて作りましたが、寒くてそ

れどころではありませんでした(^^;)。しかし、その雪洞は今、レスキュードックの訓練に

大変、役立っています。

 

 ヘルパーは貝になります。貝=しゃがみ込んで顔を伏せ、一切身動きしません。貝にな

っているヘルパーに対して、犬は一生懸命吠えます。「ワン、ワン、ワン」どうしたんだ

よぉー。「ワン、ワン、ワン」動けよぉー。「ワン、ワン、ワン」早くぅー。犬はむきに

なって吠えます。理想的な第1段階です。

 

 ハンドラーは結果を焦ります。どうしても形を求めます。すぐヘルパーを隠れさせて、

犬に捜させようとします。そして第1段階が完成していない犬にとってもそれは、決して

難しいことではありません。犬は見つけ、ハンドラーは快感を得ます。これは面白い。し

かし、まだまだ前途は多難です。これからのいくつかの障害を克服するためには、きっち

りとした基礎が、いずれにしろ必要になります。出来れば、上記のように理想的な第1段

階を目指して下さい。

 

 ここまでの段階でも、いくつかの障害がありました。まず一声、犬を吠えさせること。

次に、命令によって吠えるようにすること。そして、「何か」を目当てに吠えるようにす

ること。連続で吠えるようにすること。更に、貝になっているヘルパーに対して吠えるこ

と。訓練はステップバイステップです。

 

 これからも色々な障害があります。しかし、これからはきっと量的な練習でカバーでき

るでしょう。この基礎の段階は、ある程度は質が要求されます。はじめの一声の為に、伸

び上がったりしゃがんだり、右に動いたり左に走ったり、撫でてやったり、逃げたり隠れ

たり、ボールを転がしたりオモチャを投げたり、フライドチキンやステーキを見せびらか

したり、あるいは余所の犬や仲良しの犬を可愛がったり、遊んだり、様々な動き、トライ、

創意工夫が必要です。

 

 また、「何か」を目当てに吠えるようにするのは、「何か」への期待感を犬に作ること

です。この期待感を、いとも簡単に作ることが出来る犬がいます。いわゆる訓練性能の高

い犬です。「活発すぎる」「元気が良すぎる」「引っ張る」「吠えてうるさい」犬の能動

性や人に対する働きかけが強すぎることに起因する、愛犬家を悩ますこれらの問題の多く

は、そのままレスキュードックとしての「適性」になります。

 

 私は、先を急がなくてはなりません。性能の高い犬にとって、ここまでの第1段階は非

常に容易です。それらの犬のハンドラーは次に何をすべきかを求めています。そして残念

ながら、ある種の犬にとってここまでは、非常に困難に満ちたものです。大人しすぎたり、

なかなか期待感を持ってくれない犬達にとってです。恐らく、飼いやすい犬達の多くです。

 

余話(1)

 三田先生(ソックスさん)とお茶を飲んでいると、キーが「ワン、ワン、ワン」。うる

さい。キーは表の杭につながれており、自分を置いてきぼりにした三田先生をしきりに呼

んでいます。三田先生はキーが鳴こうとわめこうとお構いなし、でも一息ついたところで、

丁度良い機会なのでレスキュードックの第1歩、「ホエロ」をキーに教えることにしまし

た。

 

 先生、キーの所まで行って、まずは充分可愛がって気持ちを満たしてやります。これだ

けで犬から離れれば、良く吠える犬なら吠え出すのですがキーはそうはいきません。右に

隠れたり、左に動いたり、遠ざかったり、しかし、キーは吠えません。ここらは、口の重

いハスキーの血が災いしているのでしょうか。それなら奥の手と、再びお茶を飲むことに

します。

 

 事務所に入って、ご主人様の姿が見えなくなったとたん「ワン」、キーが吠えました。

三田先生、すかさず走っていってキーを褒めます。といいたいところですが、先生、泰然

自若としていて、おもむろに歩いていってヨシヨシ(^^;)。ま、イッカ、先は長い。充分な

だめた所で、又事務所に入ります。やはり姿が見えなくなったら「ワン」、キーは吠えま

す。それを見て先生、又犬をホメに行きます。5、6度も同じ事をすると、先生面倒にな

ったのか事務所に入らず、近くの雪山の影に姿を隠すことにしました。一歩、前進です。

 

 私は事務所で先生の訓練を見ています。人の反応は面白いもので、キーが大きな声で「ワ

ン」というと先生は走っていくようになりました。ハンドラーのホメ方が一歩前進。でも、

「ハウー」と鼻を鳴らしたような声だと、相変わらずゆっくりです(^^;)。

 

 三田先生が、それほど離れなくてもキーは「ワン」吠えるようになりました。先生の方

も、「ワン」とキーが吠えた事への対応が少しずつ早くなっていきます。犬も良くなって

いるし、人も良くなってます。だいたい、犬にものを教えるのがうまい人は、犬が答えた

ときの対応が素早いようです。そしてはっきりしています。先生はそれほど表情に出ない

(出さない)タイプ(^^;)。

 

 それでも、事務所まで離れなければ吠えなかったのを思えば、格段に前進しました。そ

こで、訓練をレベルアップ。「ホエロ」今度はキーに命令することにします。「ホエロ」、

キーはきょとんとしています。「ホエロ」が吠えることを要求しているのか、あるいは吠

えるなと言っているのか、キーにはまだ分かりません。2、3度命令したらキーから離れ

ます。離れ出すと、また置いてきぼりかと思って「ワン」、キーは吠えます。そこで褒め

ます。これを繰り返すと、「ホエロ」が吠えることを要求しているのだと分かるようにな

るのですが、どうやら今日はそこまで行かなかったようです。今度来るときまでに「ホエ

ロ」で吠えるようになっているでしょうか。先生、褒める際の機敏さにはいささか欠ける

ようです。でも1週間で、キーにスラロームを教えてきた実績があるほど努力家でもあり

ます。期待しましょう。

 

(9)

 レスキュードックの第2段階です。ここから本格的な人捜しを犬に教えます。第2段階

のテーマは「サーチ(SEARCH)」。レスキュードックのテーマでもあります。

 

 ハンドラーはリードをつけて犬を持っています。ヘルパーは「何か」で誘いつつ、犬か

ら遠ざかります。ハンドラーもけしかけます。ヘルパーは犬から10メートルほど離れた

ら、止まって更に誘います。ハンドラーは犬をけしかけ放ちます。犬が放され、こちらに

向かってくるならヘルパーは誘うのを止め、「何か」を手で隠し、立つか貝の姿勢をとり

ます。犬が5、6回吠えたら、ヘルパーは「何か」を犬に与えます。ハンドラーは「何か」

を得た犬を賞賛します。賞賛しながらリードをつけ、充分に賞賛したなら「何か」を取り

上げヘルパーに渡します。ヘルパーは「何か」で誘いつつ、犬から遠ざかります。、、、

 

 繰り返します。ヘルパーと、ハンドラーと犬はあたかも尺取虫のように追いかけっこを

しているようです。ヘルパーに追いついたら犬は賞賛され満たされます。それも束の間、

犬とハンドラーを残して又ヘルパーは逃げ去ります。犬は満たされ無い状態になり、その

心を満たそうとヘルパーを追いかけます。「何か」への期待感はいつのまにか、ヘルパー

を求める心に変わります。ヘルパーが隠れると、それは尚一層募ります。ヘルパーは、建

物の影、車の向こう側、草木の側などへ、完全には姿は隠さずに、少しずつわかりにくい

ところへ移動するようにします。

 

 但し、この追いかけっこは、やりすぎてはいけません。犬が充分興味を持っている内に、

ヘルパーをうまく見つけたところでフィナーレにするべきです。1クール、せいぜい5、

6回でしょうか。

 

 これを何回かやると犬は、ヘルパーが特別誘わなくてもヘルパーを追いかけようとしま

す。ヘルパーが離れだしたら、既に犬が吠えはじめるようで構いません。犬が仕事を分か

ってきたのです。非常によい傾向です。

 

 今の段階ではまだ、「捜す」事よりも「追いかける」事が大切です。従って、完全に姿

を隠したり、遠くに離れすぎたりして、捜すのに時間がかかったり、苦労するような設定

は必要はありません。またハンドラーも、ヘルパーを追いかけようとする犬の気持ちを煽

ります。仕事が出来たときにヘルパーは「何か」を犬に与えます。「何か」を得た犬をハ

ンドラーも賞賛し、満足感を更に高めます。満たされた状態と、満たされ無い状態の差が

大きくなるほど、ヘルパーを追い求める気持ちが強くなります。それが狙いです。

 

(10)

 ひどい寒さですね。よけた雪の山に穴を掘って人を隠し、雪山での遭難者を想定したレ

スキュードックの訓練は今が旬です。

 

 ヘルパーを追う気持ち、ヘルパーを求める気持ち、これは大切です。この気持ちさえ強

ければ、ヘルパーが隠れても犬は捜そうとします。そうです、これで、もうすでにレスキ

ュードックの原型は確立されています。あるいは、レスキュードックと言っても差し支え

ないほどです。あとは練習によって、対応できる条件を増やしていけばよいのです。では、

これでこの犬を伴って災害現場に出ていけるかというと、それは別問題です。

 

 例えば、今災害が起こったらどうなるでしょう。阪神大震災の折りには不足していて歓

迎された救助犬ですが、それ以降、救助犬の訓練をしている人は急速に増えています。少

しでも役に立ちたい、あるいは功績を挙げて名前を広めたい、あるいは阪神大震災でのス

イスチームのように話題になりたい、災害現場に救助犬が殺到という事態が起こるかも知

れません。それはしかし、歓迎されるとばかりは限らないのではないでしょうか。それど

ころか、下手をするとお荷物、迷惑、あるいはまかり間違えば二次災害の受難者になるか

もしれません。レスキュードックを運用していくためには、犬がレスキューの能力を身に

つけているだけではなくもっと別のことが必要になってきます。それは例えば、人命救助

のノウハウを知るとか、行政との関連を整えるとか、あるいは、現場での生活術(サバイ

バル術)をおぼえておくとか、気象学を勉強するとか、更に装備についても充分な用意と

検討が必要です。

 

 私がこのレスキュードックで明らかにするのは、あくまでも犬にレスキュードックとし

ての能力を持たす為の「訓練」です。訓練された犬を伴って災害現場で活動すること、す

なわち「運用」は訓練とは全く別だと考えて下さい。レスキュードックの訓練は非常に簡

単ですが、レスキュードックの運用は非常に難しい問題をかかえています。阪神大震災の

折り、露見した行政側の受け入れ体制の不備ですが、行政側はいぜんとして戸惑っていま

す。救助犬を、未だにどう処理していくか、どう扱って良いのか、はっきりしていないよ

うです。しかし、それはそれこれはこれです。「運用」と「訓練」は全く別です。

 

 もう一つこれに関連して私が考えるのは、少し不謹慎な言い方ですが、救助犬が活動で

きるような事態がどれくらい起きるだろうかということです。これは、過去何十年かにさ

かのぼって調べれば容易に分かります。そう、何十年に一度ぐらいの頻度でしか、そうい

う事態にはなりません。従って、災害救助にのみ照準を合わせたレスキュードックとなる

と、それを維持することは非常に大きな負担になります。レスキュードックは、レスキュ

ードックのためのレスキュードックでよいと私は考えます。レスキュードックの訓練をす

ること自体が目的であって良いと思うのです。レスキュードックの訓練は非常に面白い訓

練です。また人と犬との関係からも、それは非常に良い影響を両者に及ぼします。私は、

レスキュードックが大衆化され、それが例えばアジリティーやフリスビーのように犬を伴

うスポーツであって良いとさえ思います。その上で、レスキュードックの「運用」につい

ては、それに熱心な人が集まって、「運用」の体勢を整備していくのが望ましいのではな

いでしょう

いたレスキュードックとそのハンドラーをサポートして一つのチームを作り対処する、と

いうのも良いかも知れません、

 

 いずれにしろ、運転免許を取ったすべての人が車に乗ることがないようにレスキュード

ックを持っているからといって、即それが救助活動をすることにつながるとは考えなくて

良いのではないでしょうか。

 

(11)

 {ボランティアについてさえ考えない人がレスキュードッグについて公の場で話されて

いたことの方がおかしい}と思いきり叱られてしまいました。そこで私はボランティアに

ついてのヒントを得るため、FPET、FACTIVEあたりをさまよってみましたが、ボランテ

ィアについて、はっきりこうだと言えるだけのものはまだ得られていません。しかし、ほ

かに至らない点が多々あったとしても、その人なりに出来ることをすれば良いのではない

かという気が私はします。私に出来ることは、レスキュードックの訓練を紹介することだ

けです。(それも不足な点はたくさんあると思いますが)それが、少しでも日本の救助犬

にとってプラスになることを願うばかりです。ということで、レスキュードックの訓練、

再開します。

 

 訓練をはじめて2週間、新倉さんのハナは恐ろしいほどの勢いでレスキュードックの訓

練をおぼえています。人を捜すこと自体が楽しくて、そして、やりたくて仕方ないようで

す。母方を流れる麻薬捜査犬の血のせいでしょうか。ハナの場合、順調に訓練が進んだ様

ですが、これは逆のことも言えるかもしれません。例えば、ハンドラーによるホエロの練

習が長すぎると、犬によってはヘルパーに行かなくなってしまうのもいます。また、立っ

ているヘルパーへの練習をしすぎると、ただ立っているだけの人にも反応するようになり

ます。確実を期すために訓練を停滞させることは、プラスにばかり働くとは限らないよう

です。犬が伸びるときには、どんどん伸ばす方が良いようです。

 

 ここで、またおさらい(手抜きとも言う(^^;))。今までのステップです。

 1・何でも良いから吠えさせる。

 2・「ホエロ」の合図で吠えさせる。

 3・「何か」を目当てに吠えさせる。

 4・「何か」がもらえるまで吠える。

 5・ヘルパーに対して吠える。

 6・ヘルパーを追いかける。

 7・ヘルパーを捜す。

 

 3の「何か」ですが、持来欲の強い犬はボールで何の問題のでない段階です。

 それどころか、はじめからボールを用いた方が訓練は楽でしょう。しかし、持来欲の薄

い犬はこのステップは一苦労します。犬が執着を示す「何か」を見つけなくてはなりませ

ん。しかもそれは、用意したり取り扱ったりするのが容易なものでなければなりません。

例えば、いくら良く吠えるといっても、それが牝犬だったりしたら、後の訓練は大変なも

のになってしまいます。「何か」は犬の好物、食べ物でも構いません。案外「骨」などは、

執着を示し、取り扱い易いようです。

 

 北海道では、今時期、雪を利用してヘルパーを隠すのが一番手っ取り早く、実用性も高

いようです。しかしそれは、馬鹿にならないほど「危険」でもあります。今後訓練は、実

際の現場を想定した練習を重ねていくことになるのですが、それは一歩間違えると、実際

の現場その物になりかねません。特に「雪」は要注意です。うちでも、すんでの所で事故

を起こすところでした。それ以後、簡単な訓練でもヘルパーには、必ずトランシーバーを

持たせ、連絡を取り合いながら訓練するようにしています。また、トランシーバーは訓練

上の要望=犬を呼んでくれとかをヘルパーに伝えるにも便利です。

 

(12)

 マクロ的捜索とミクロ的捜索。

 ヘルパーを追い求める気持ちは確立されたでしょうか。この気持ちが原動力です。ヘル

パーは犬から離れるとき、この気持ちを高めるように盛んに誘います。ハンドラーも犬を

けしかけます。ヘルパーは、上半身だけ出したり、左右の半身だけ犬から見えるようにし

てまだ、完全には姿を隠しません。ヘルパーは犬の気持ちの強さを計算します。大丈夫と

見たら、完全に姿を隠します。まだ無理だと考えたら、必要に応じて姿をさらけ出したり、

声をかけます。

 

 レスキュードックの訓練では、失敗させて「捜し方が悪い!」と犬を叱ることはプラス

になりません。成功を積み重ねて、自信と捜す喜びを犬に持たせていくべきです。従って

ヘルパーは、犬が捜すのが難しそうだと感じたなら、途中からでも姿を現して、あらぬ方

向に行ってしまった犬を誘います。犬の気持ちの強さや、捜し方の熟練にしたがってヘル

パーは姿を完全に隠すようにしていきます。それにつれて、犬のヘルパーを追い求める気

持ちを、捜す行為に振り向けていきます。さて、ここでフィールドを選択しなくてはなり

ません。フィールドは家の中でも、草原でも、雪山でも、庭でも、公園でも構いません。

フィールド=レスキュードックの訓練の場所に草原を選択します。ヘルパーは犬から逃げ

て草むらにひそみます。ニオイはヘルパーの体から漂って、そのまわりにあったり、風に

よって流されていきます。犬は草原を駆けながら、漂うニオイをみつけ、ヘルパーに至り

ます。ヘルパーはだんだん遠くに隠れます。犬の捜す範囲は、だんだん広範囲になってい

きます。

 

 次に庭をフィールドとします。ヘルパーは庭のどこかに隠れます。植え込みの影、ベニ

ヤ板を立てかけてその下、ガレージの中、シートの下、よほど大きな庭でない限り、隠れ

る場所にすぐに行き詰まってしまいます。そこでシートの下に隠れ、更にその上にベニヤ

を置いてみます。捜す場所は限られています。犬は一通り捜してみます。いません。もう

一度捜し直します。そうすると良く嗅いでみたらベニヤの下からかすかにニオイがします。

隠れる場所が限られている分だけヘルパーは、簡単にはわから無い様に工夫して隠れます。

すると犬は、わずかなニオイを逃さないように丹念に捜すようになります。

 

 捜し方に二つのタイプが存在するのです。限定された区域を綿密に、かすかなニオイも

逃さないように丹念に捜すことを要求するミクロ的な捜索作業とある程度広範囲な地域か

ら探し出すことを要求するマクロ的な作業です。前者は地震などによる災害現場の崩壊し

た建物、あるいは雪崩の現場から埋められてしまった人を捜す作業に後者は山菜取りなど

での行方不明者を捜す作業に発展していきます。

 

 北海道のように、広範囲なフィールドが比較的容易に得られる地域ならマクロ的な捜索

が、逆に練習場所があまりなく毎日同じ場所での練習しかできないようなら、ミクロ的な

捜索の練習が良くできます。

 

 雪の多い地域では、排泄した雪から出来た雪山で雪崩による遭難者を想定した練習が出

来ます。何日か同じフィールドで練習すると犬は、そのフィールドに来ると特別なことを

しなくてもそこで何が期待されているのか分かるようになります。仕事を覚えた、といこ

とですが、これは重要です。ヘルパーが犬の気持ちを煽らなくても、犬がその気持ちにな

ってくれます。

 

 ハンドラーは、仕事を開始するときに明確なサインを用意しておくべきです。例えば、

私がバアバアに仕事をさせる場合は捜すべき区域をゆびさして「ヨシ、ヨシ」とけしかけ

るように声をかけます。ほとんどの場合バアバアは何をしなければならないか、理解した

ことを私に伝えてよこします。「ワン、ワン」、そこで私はバアバアからリードを外し、

仕事に放ちます。

 

 

(13)

 春ですね。この何日か北海道は、天気も良く暖かでまるで春のようです。このまま冬が

終わってくれたら、どんなに良いか。そう思うほど今期の前半は、すさまじい雪でした。

毎日の雪かきや、吹雪の中の車の運転に辟易した人も大勢居たのではないでしょうか。本

当にやっかいな雪ですが、レスキュードックの訓練にとっては実に好都合なのです。 

 

 前回出てきたミクロ的捜索には、丹念に捜すことが要求されます。そしてそれを犬に教

えるには、ちょっとしたテクニックが必要です。すなわち適度な難度を設定する事です。

難しすぎていくら捜しても分からないのでは、犬は良くなりません。そうかと言って、す

ぐ見つける事が出来るような安易な設定では、犬はなかなか丹念に捜すようにはなってく

れません。簡単には見つからないが、一生懸命捜せば分かるという設定が良いのです。難

度を設定するには当然、犬の能力も考慮されるべきです。同じ条件でも、犬の能力に応じ

て難度は違ってきます。

 

 この難度をコントロールするうえで雪は、大変便利です。ヘルパーを埋める雪の深さを

簡単に変えることが出来るからです。同じ事を砂利や廃材でやろうとしたら、大変な労力

です。また砂利や廃材は、安全性の面からも危険です。

 

 雪を利用してのレスキュードックの訓練の段階を紹介します。これはそのまま、雪崩や

落雪による行方不明者のレスキューに使えます。また、土砂崩れや、家屋の倒壊などによ

る行方不明者の捜索の訓練にも有効ですし、少しの手直しでそれらに対応できるでしょう。

 

 1・立っているヘルパーに対する連続咆哮。

 2・貝の姿勢をしているヘルパーに対する連続咆哮。

 3・ヘルパーは隠れる。

 4・雪の穴の中に隠れる。

 5・サインを使用する。

 6・雪の穴の入り口をふさぐ。

 7・入り口を雪でふさぎ、更に除雪機で雪をかける。

 

 ”1・立っているヘルパーに対する連続咆哮”は、いわゆる基本の形ですね。ハンドラ

ーはリードを付けて犬をしっかり持ち、ヘルパーは犬の好きな「何か」で誘いながら犬か

ら離れます。10メートルほど離れたら止まって更に誘います。ハンドラーは犬の気持ち

が高まったところで犬を放ちます。ヘルパーは犬の方を向くのではなく、犬に対して半身

か後ろを見せて立っているべきです。そして出来れば、犬に対して一切の補助をすべきで

はありません。良く吠えるように「ホエロ」「ホエロ」とけしかけたり、犬の好きな「何

か」を見せびらかしたりすべきではありません。視線も外した方がよいでしょう。働きか

け(咆哮)を無視すると犬は働きかけを止めてしまいます。しかし、知らん振りをしてい

ることが単なるポーズだと分かれば、犬はムキになって吠えるようになります。

 

 ”2・貝の姿勢をしているヘルパーに対する連続咆哮”も1の知らん振りがポーズに過

ぎないことを犬に教えることと関係しています。隠れる際ヘルパーは、常に立つ事が出来

るとは限りません。貝の姿勢に対して吠えることも、良く練習しておくべきです。

 

 ”3・ヘルパーは隠れる”。ここでやっとヘルパーは隠れます。余談ですが「捜すこと」、

ラブやゴールデンはこれが根っから好きですね。「捜す事」その物が面白くてならないよ

うに、楽しく捜します。この点では訓練性能が高いシェパードも、遠く及ばないようです。

猟犬としての血のせいでしょうか。「捜すこと」自体が好きなのですから、ラブやゴール

デンはここで訓練がぐぐっと進みます。

 

 ”4・雪の穴の中に隠れる”。ここでようやく雪を使います。雪の穴は日が経つにつれ

て小さくなってしまいます。安全性の面もありますし、雪の穴は大きめに開けておくべき

です。排雪の雪山か落雪の雪山を利用して、斜面に掘ると良いでしょう。掘るには大変で

すが、入り口は出来るだけ小さくするべきです。掘り進むにつれて、中が大きくなるよう

に掘ります。その習性でしょうか、犬は穴が大好きです。またヘルパーを見つけても、吠

えずに飛び込んだり、土を掘り起こそうとします。ヘルパーは、体でブロックして犬を穴

の中に入れないようにし、吠えることを犬に要求します。また、穴掘りに一生懸命になっ

ている犬にも声をかけて吠えることを要求します。

 

 ”5・サインを使用する”。今までの段階までは、ヘルパーが走り去るのを見て犬はそ

の気になっていました。しかし、それでは実際の現場には使えません。犬がその気になる

「サイン」を用意するべきです。捜すべき方角を指し示して、吠えさせるのがよいと思い

ます。ハンドラーはヘルパーが隠れても、今までのようにすぐには犬を放ちません。少し

時間をおき、場所も少し変えて犬に「サイン」を示します。そして犬がその気になったら

放ちます。時間や場所は徐々に長くしていきます。そして、予め隠れていてもらって、隠

れるのを見ていないヘルパーを捜すことを要求します。「サイン」で犬をその気にさせる

ことが大切です。「サイン」を犬に印象づけるには、最初はいつも練習している場所でそ

れをはじめるべきです。あるいは、他の犬が仕事をしているのを見せながら、気持ちを高

めるのも良いことです。

 

 ”6・雪の穴の入り口をふさぐ”。この段階から、トランシーバーを使用します。入り

口をふさぐとき、板や網を利用すると手間が少なくて済みます。ヘルパーと連絡して、中

の明るさを知らせてもらいます。明るさが密閉の目安です。

 

  ”7・入り口を雪でふさぎ、更に除雪機で雪をかける”。何回か練習すると犬は、人

の手が入った雪を区別できるようになります。すなわち、ヘルパーを埋めるのにスコップ

で埋めたり、掘り起こしたりすることが、犬に手がかりを与えてしまう事になるのです。

そこで、隠したところと別の所の雪も掘り起こします。ヘルパーが隠れたところやその辺

り一面に、除雪機で雪を飛ばすのも良いカモフラージュで、少なくても人の目では全く分

からないようになります。

 

 ここまでです。この部分はビデオがあります(基本の形までの段階は入っていません)。

興味のある方には配布できると思います。(媒体はビデオテープです。AVIファイルでD

Lにアップもできますが1ギガもあります(^^;))ここから後の訓練は、人間の手では限界

があります。出来れば重機(ブルとバケット)を利用して、市の排雪場のような大きな雪

山の途中にバケットで穴を開けて人が入り、その上からブルで雪を崩して隠すと良い訓練

になるでしょう。

 

 もう一つ。早く捜せることが、必ずしも犬の高い能力を現しているとは限りません。長

い時間、犬が仕事をし続ける事も大切です。

 

 U人